幼い頃から、「霧」という現象が好きだった。
濃霧の中にいると視界が不明瞭になり、1メートル先すら把握できない状態が、怖さと同じ分量だけ楽しかった。霧は視界だけではなく、音をも歪ませてしまうため、日常とは違う世界に迷い込んだような感覚になる。人の域ではない場所に足を踏み入れたのではないかとすら、思ってしまう。全身の感覚を使い、霧の中に自分自身の肉体を溶かすように意識を解放し、私は濃霧というものを味わうように楽しんでいた。
都内では、濃霧とは出会わない。
時々、あの感覚を懐かしく思い出していると、ふと「ああ、世の中そんなに明瞭でなくて良いよな」と思うようになった。
見えすぎる不自由は、全てが可視化された現代とも重なった。
やはり濃霧に会いたくなった。
In the fog
960x960x11,5cm
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